鹿児島の食とデザイン

鹿児島県の重要産業である「食」に関して、デザイン及びデザイナーの力で付加価値を高め、食産業の活性化する事業をおこなっております。

鹿児島の食とデザイン-インタビュー

インタビュー

2.06

クリエーターfile.2. グラフィックデザイナー 竹下 とみお 氏

デザイン≒戦略。かっこいいものがデザインじゃない。

イラストレーター 大寺聡さんにお話を伺います。

webインタビュー第2回目はデザイン会社「協業組合ドゥ・アート」の代表理事、竹下とみおさんにお話を伺います。鹿児島デザイン協会理事で、自身も現役のグラフィックデザイナーである竹下さんに、長年見てきた鹿児島デザイン界の変遷、多くの経験を通じて今率直に感じている事を伺いました。

「色そのものはバラバラでも、トーンが合えば、心地よい色彩を放つ。」

-デザインの道に進んだきっかけは?

高校生の時、アメリカ留学をしてそのまま向こうの大学に入ったんです。専攻はビジネスアドミニストレーション、デザインとは全く別の分野でした。学校新聞の写真を任されるうちに、次第に写真が好きに。結婚していなければ、ボストンの写真専門学校に行っていたでしょうね。結婚後は勉強より稼ぐことを優先して帰国、父の印刷会社を手伝っていました。そこでデザインが入っているものとそうでないものは訴えに歴然と差がある事に気づいたんです。5年後にデザイン会社PSAPを立ち上げ、1996年に現在のドゥ・アートを設立しました。

-アメリカにいた経験は、今に影響していますか?

随分影響していますね。僕は飾りとして英語のコピーを入れる時にもローマ字の形の美しさをデザインすることにこだわります。そして何より「色づかい」。今もアメリカの雑誌を定期購読していますが、日本にはない独特の色使いがあって、未だに真似できません。最近の仕事でも「色」の重要性を再認識しましたよ。色そのものはバラバラでも、そのトーンが合えば、心地よい色彩を放つ。それが分かりましたね。

「バブル崩壊後こそ、真のデザインの価値が出てきた。」

もともとは年賀状用に描いたが、ベースはこの地域で人口が減っており、こういう未来もあるんじゃないかという想いから作った“勝手に未来予想図”。

-竹下さんの目から見て、デザイン業界はどのような変遷をたどってきましたか?

バブル期はデザインがもてはやされていました。でも景気が悪化したバブル崩壊後こそ、真のデザインの価値が求められていると思います。販売促進にデザインが必要と考える者と、とにかく何でも安く済ませた方が良いという者、2極化が進み、その後パタッとデザイン活用が滞りました。そしてこの2~3年、鹿児島でも企業がまたデザインを活用しようという姿勢を感じます。今後の鹿児島はもっと2極化するんじゃないかな。

-現在の仕事内容について教えて下さい。

地元企業との仕事が多いです。僕は、デザインとプロダクトを相互に育てながら地元でできることは地元でやるほうが良いと思っています。大概のことは鹿児島でもできる。最近は医療機関との関わりが多く、クライアントに関わる勉強、その業界の言葉を覚えるのが大変ですが勉強になっています。デザインをベースにしながら、望まれる場合はコミュニケーション企画なども手掛けます。

「デザイン≒戦略。商業デザインは、芸術じゃなくもっと理論的な作業。

-デザインを活用する企業側に求められることは?

デザインを経営戦略の重要要素としてとらえてみてはどうだろうか。そういう捉え方をしていかないと、デザインを上手く活かしての経営は難しい。経営者の方には、デザインが「とっつきにくい・高価・作品」ととらえられる事が多いのですが、デザイン≒戦略です。商業デザインは芸術じゃなくもっと理論的な作業、紙面を見たときに最初に目がいくのはどの辺りというZ効果など、基本的なメソッドが合っていれば大きく狂わないんです。

-企業がデザイナーに期待していることは何だと感じますか?

「デザインでものが売れる」ということ。僕らは作家じゃなく商業デザインを手がけているんです。だからかっこいいものがデザインというわけでなく、作ったもので商品が売れればそれがデザイン。もちろんコミュニケーションツール、消費者とクライアントを結ぶものではありますが、かっこいいだけでひっかかりがないものは見過ごされてしまいます。

-過去の実例で印象的なエピソードはありますか?

あるクライアントさんから、文中の簡単な漢字にも全て読み仮名をふってほしいと依頼されました。それはとても手間のかかる作業で紙面もうるさくなるので最初は抵抗したけれど、やっているうちに、その理由がわかってきました。読み仮名がふってある方が、ちゃんと読むんですよ。一見、邪魔でうるさいようだけど、フリガナがあるほうがつい目がいく。本当に色んな手法がありますよね。

大寺さんのオフィスは外の自然とオフィス内の仕事の世界が同時に視界に入り、2つの世界を行ったり来たり出来る。

「デザイナーも職人。頼られると頑張るデザイナーは多いから、上手く使ってほしい。」

-デザインの仕事をするうえで、何か企業へのアドバイスはありますか?

訴えたい事を絞ってみてください。要素が沢山あるより一つのことをしっかり伝えるほうが説得力が増す。そしてデザイナーをもっと上手く使うと良いですよ、デザイナーも職人ですからね。頼られると意気に感じて頑張るデザイナーは多い。頭ごなしの指示より、もっと頼って同じ目線で見て、もっと個性を出したデザインを受け入れてくれるクライアントさんが増えると嬉しいですね。

-これからのデザイナーに求めることは?

僕は40年近くPANTONEを使用していますが、昔はPANTONEで指定しても通じることが少なかった。若い頃からよく東京MACエクスポやサンフランシスコなど色んなメッセ(展示会)に出て勉強してきました。ベテランの方はCMYKの数値で色がパッと頭に浮かぶが、今そういう人が減っているように思います。
今、若い世代はパソコン1台で独立するケースも多いけれど、どこかに勤めてある程度色んな技術を得て、経験を積んでから独立していないと、色や紙の基本的なことを習得できていないケースがあります。僕は、若い社員にはまず鉛筆でサムネイルを描いてからパソコンに向かうよう指導します。そんな中、最近のチラシは「白」が少なくて。スペースをまず色や写真で埋め尽くすことで安心していないでしょうか。
それとやはり、仕事をする上でデザイナーやコピーライターには技術だけでなく、コミュニケーション能力も必要だと思います。

「検討を重ねるほど良いものが出来る。紙面の中でつじつまが合う瞬間が面白い。」

-今後、竹下さんがやりたい事はどんな事ですか?

レベニュー・シェアリングです。デザイナーと生産者の間で、支払い額を固定した委託契約ではなく、売り上げに応じた支払い。パートナーとして提携するんです。リスクを共有しながら、互いの協力で生み出した利益を決めておいた配分率で分け合う。今まで仕事をしてきて、デザインした仕事の結果がわからないままのものも多く、また商品はすごく良いのに予算の都合で断念せざるを得ない時もありました。そんな時にレベニュー・シェアは一番良い方法だと思うんです。それに自分達が発掘してそれを世に出す、ということもやってみたいのです。

-最後に、今後のデザイン界へ期待や希望を聞かせて下さい。

技術の進歩で洗練されたものができる今だからこそ、プロダクションが見過ごしがちな文字や書体、そこにデザイナーの力を活かせる場所が沢山あると思うんです。デジタル化が進んだ今、あえてアナログなものが大事にされたり、紙を型で切る、紙をどう折るか、というのが見直されるようになってきており、これは良い傾向ですね。
デザインって、幾度も考えて検討を重ねるほど良いものができる。紙面の中でつじつまが合う瞬間、すごく面白いですよ。

竹下 とみお

大寺聡さんプロフィール写真

Profile:鹿児島生まれのグラフィックデザイナー。高校生でアメリカ留学をした際に写真に興味を持ち帰国。父の印刷会社に勤めた後、デザイン会社PSAPを立ち上げる。1996年、協業組合ドゥ・アートを設立。現在、鹿児島デザイン協会理事(事務局長)を兼務し、鹿児島で多数のデザインに関わる。