鹿児島の食とデザイン

鹿児島県の重要産業である「食」に関して、デザイン及びデザイナーの力で付加価値を高め、食産業の活性化する事業をおこなっております。

鹿児島の食とデザイン-インタビュー

インタビュー

5.26

クリエーターfile.5. グラフィックデザイナー 左合 ひとみ 氏

デザインは地域の素晴らしさを伝える術

グラフィックデザイナー 左合 ひとみ 氏

webインタビュー第5回目は「株式会社 左合ひとみデザイン室」の代表でグラフィックデザイナーの左合ひとみさんにお話を伺います。東京在住ながらナショナルカンパニーから地域の企業まで幅広い領域で活躍されている左合氏に、現在に至るまでの様々なご経験や想い、クライアントとデザイナーとの関係、そして講師などでご協力いただいた「鹿児島の食とデザイン」についてお話を伺いました。

「コミュニケーションをデザインする」

-デザイナーという職業を目指したきっかけは?

小学生の頃、近所に雑貨や化粧品を売るお店があり、そこで目にする素敵なパッケージや店頭ポスターに憧れていましたが、同時に漫画家も目指していました。実際、少女漫画を描いて漫画雑誌への応募もしていたんです。そうやって漫画家を目指しながらも、化粧品のデザインに惹かれる気持ちもあって、漠然と(こんなことをする人になりたい)という気持ちも持っていました。言葉にならなかった当時の気持ちは、今思うと「アートディレクターになりたい」ということだったんだと思います。

-芸大に行こうと決めた時には、デザインでやっていくと決心していましたか?

まだ漫画とデザイン両方向で考えていました。実際、高校生のときも大学に入ってからも、漫画を描き続けていたんです。でも大学に入ると、漫画の描き方が文学的になり、少女漫画向きじゃなくなったことを自分なりに感じて、広告デザインの方向かもしれないという思いで、当時、注目される広告を展開していたパルコに就職しました。

-芸大からパルコに就職されましたが、どのような流れでしたか?

パルコは入ってから配属が決まるので、その時点では広告を目指している人が多いのですが、営業などいろんな部署に振り分けられて、最終的に私だけが広告に行きました。めったにいない芸大卒だったので、社内の方々に歓迎されたように思います。でも、クライアントとしてクリエイターに発注する立場でしたので、自分の手でデザインの実務がしたくなり、準朝日広告賞受賞をきっかけにカメレオンというデザイン会社に転職しました。そこで6年間いろいろな広告デザインを手掛けた後、独立しました。

「ヒアリングを重ねて本質を捉える」

-企業から依頼があった時、心がけていることはありますか?

クライアントへのヒアリングを重ねて本質を捉えることを大切にしています。商品に問題があると感じたら、「これはこのまま出さない方がいいですよ、止めましょう、変えましょう」とお伝えすることもありますし、ミーティングには半日かけることもあります。コミュニケーションデザインを行う上で、クライアントとのコミュニケーションは最初の大きな一歩なのです。

グラフィックデザイナー 左合 ひとみ 氏

~島根県津和野町にある昭和26年創業の和菓子処『三松堂』。地元に愛され続ける定番の和菓子「鯉の里」のリニューアルパッケージを手がけた。ネーミングも「こいの里」へ変更。店頭でパッケージを並べると、ハートマークが現れる仕掛けで、津和野の街の堀割を泳ぐ「鯉(こい)」を「恋(こい)」にも掛けている。パッケージの色は、津和野の瓦の色と白壁の白を組み合わせることで土地の魅力を表現した。

「経営者と近い関係を持てる、地域企業の魅力」

-ナショナルカンパニーと地域の会社との違いはありますか?

地域の中小企業の場合、決定権を持っている経営者の方とも直接お話ができるというメリットが大きいです。どんなにスタッフの方にやる気があっても、経営者にやる気がなければ企画倒れに終わってしまいますので。デザインに初めて取り組むとき、最初はどの会社でも大変なことはありますし、デザイナーと仕事をした経験がなくやり取りに慣れない企業の方もいらっしゃいますが、思いを言語化していくていねいなコミュニケーションをとることで、一緒に課題を乗り越えていくようにしています。

-デザインの仕事をされていて、おもしろいのはどういう時?

うんと考えて、アイデアが出て、それを形にしたものを人に喜んでいただける。「感動しました」「鳥肌が立ちました」などと仰っていただけたときにはとても嬉しいものです。そしてその商品が実際に売行きが良かったり結果が出ているとき、また同業の仲間が評価してくれたときなどにこの仕事のおもしろさを感じます。

グラフィックデザイナー 左合 ひとみ 氏

~ブランディングから関わった、広島県のもみじまんじゅうの老舗和菓子舖『藤い屋』の新たなブランドである和洋菓子処『古今果』(coconca)の新商品。パッケージデザインを手掛けた「広島産ネーブルオレンジのオランジェット」。

「売場で発揮するパッケージデザインのチカラ」

-地域の企業にとって、デザインがもたらす効果や可能性はあると思いますか?

地域の企業にとっては、首都圏の企業以上と言ってもいいくらいにデザインがもたらす効果や可能性は大きいと思います。むしろ、地域の企業や商品はデザインがなかったら「広がる」ことが難しいのではないでしょうか。効くコミュニケーションデザインがなかったら、せっかく良いものがあっても、その良さが伝わらない。残念なことに、地域にはそういう商品が多くないですか? 商品の本質である魅力を捉えて然るべき形にしてあげれば、ちゃんと伝えたい相手に伝わります。そのときに売場で力を発揮するのが顔であるパッケージ。そこがうまくいけば、デザインをしたことによって目に見えて効果が出ると思います。

-初めてデザインに取り組む地域の企業へアドバイスなどありますか?

企業の方とデザイナーがコミュニケーションをとることがまず第一。あとは出会いの問題もありますね。相性の良い方と、お互いに親身に腹を割って話ができるということが一番大切ですから。それをしないで電話一本の何となくの依頼で済ませていると、永遠にうまくいかないのではないでしょうか。まずは、双方がしっかりとコミュニケーションをとって、その時点で違うと感じたのなら、ストップすることもできます。そして企業側のものづくりの方たちも、人を見る目と話をする術を持つことは必要だと思います。確かなコミュニケーションの上にデザインが現れるわけですので、ここは大事ですね。

「鹿児島のデザイン」

-最近の鹿児島のデザインについていかがですか?

デザインが良くなってきているとか、お洒落になってきたと言われていますね。実際、売場でみる商品のデザインが変化していて、全体的になかなか洗練されてきていると思います。地方産品としてのポジションの取り方が少しずつ変わってきているということですね。ただ、全国どこでも同じようになったらつまらないので、地域らしさを持ったデザインの向上があるとよいと思います。

-『鹿児島の食とデザイン』事業に、数年関わっていただいてのご感想をお願いします

鹿児島にはまだまだ表に出ていない良い商品・おもしろい商品があるはずなのに、「出会えていないデザイナーとメーカー」が多いのではないでしょうか。「出会う」こと自体もきっかけがなかったら難しいのかもしれませんね。その出会いをマネジメント・コーディネートするという、俯瞰で見ることができるこの事業は非常に重要だと感じます。誰に誰が、何にどんなデザインが向いているかなど、第三者だからこそわかることもありますよね。デザイナーにも繊細なデザインをする人、豪快なデザインをする人など、いろいろタイプがあります。そのような出会いの仕組みをつくり、サポートや助言をするような機能があることに意味があると思っています。

左合 ひとみ

左合 ひとみさんプロフィール写真

Profile:岐阜県出身。東京藝術大学美術学部卒業後、パルコ広告制作局、カメレオンを経て、1988年株式会社左合ひとみデザイン室設立。グラフィックデザインをベースに、企業のブランディングや商品開発からプロダクト、空間デザインまで幅広い領域で活動。企業と顧客のコミュニケーションをデザインすることによる、問題解決と新しい価値の創出を目指し、地域産業活性化のプロジェクトも多い。JAGDA会員。