デザイナーは、商品の価値を伝えてくれるプロフェッショナル
webインタビュー
食品関連企業経営者へのインタビュー第2弾は、鹿児島県阿久根市にある農事組合法人三笠えのき茸生産組合 理事の松崎 勝利さんにお話を伺いました。培地の国産化など自然循環をテーマとした特徴ある栽培を行う三笠えのき茸生産組合。「鹿児島の食とデザイン2015」事業への参加をきっかけにデザインを取り入れ、従来とは違う市場へも挑戦されている松崎氏に経営とデザインの関わりなどお話を伺いました。
「デザインは価値を“見える化”してくれる」
-鹿児島の食とデザイン2015のデザインワークショップに応募されたきっかけは?
鹿児島県の事業へ参加している中で、自社の方向性を見ていただく面談があり、講師の方からアドバイスをいただきました。自社商品の『乾燥えのき茸』を見てもらうと、『おもしろい』と言われたのですが『現商品ではなくデザインを変えた方が良い』と言われ、その時期とこの事業のワークショップが同時期にあったので応募しました。
-デザイナーから最初の提案があったとき、どのようなお気持ちでしたか?
オリエンテーションで話をして、実際に製造現場など見学してもらったうえで、提案いただきました。製造行程や原料などを踏まえ、『濃いえのき』と『食べるジョギング』の【EATY-JOG】の2つのブランドを作っていただき、「新しい展開ができる!」と感じ可能性が見える気がしました。

~鹿児島の食とデザイン2015のデザインワークショップで誕生した『濃いえのき』ブランドと『EATY-JOG』ブランド。『濃いえのき』(左)は、えのき茸をその姿のまま乾燥した商品や、おつまみのシリーズ化も展開。『EATY-JOG』(左)は、乾燥えのき茸を粉末状にした商品。商品の幅も市場の幅も広がり、商談会や展示会などへも自信を持って出展している商品~
「惨敗からデザインの力で這い上がる」
-以前の既存商品で出展したときの反応は?
『食べるジョギング』の商品名だけで、『何?食べるジョギング?』と気になる方はいましたが、その商品を取扱いたいと言われることはまずなかったです。物産展などで『食べるジョギング』を置いていると、お客さんは『食べるジョギングって何?』と言って試食すると『いいね』と購入してくださいます。しかし、百貨店や量販店の売場へ広がることは無かったです。惨敗といえば惨敗です。
-新デザインで出展したら変わりましたか?
『自然の恵みと巡りから美味しいを届ける』という自社のコンセプトがデザインの力によって、「見える化」されました。「見える化」することでお客さんが立ち止まっていただいて、そしてひとつひとつ説明すると納得される。デザインとブースが一体感というか、そこにお客さんが興味を示していただいたのは大きいです。商品だけでなく、企業の理念なども、スピード感ある理解をしてもらえる見せ方ができました。
-実際、商談の方はいかがですか?
その後、数十件商談しまして、サンプルや仕様書も配り、見積を提出しました。実際は数件商品の出荷が始まりました。もちろん新しい商品、ブランドができたばかりでやっと一歩、お店にも並び始めました、という段階です。これからは、きっちり売り場を獲得していくことです。うちは小さい会社ですので、大きい相手と商売するのは難しいのですが、定番化することが売り上げにつながっていきますので。

~【鹿児島の食とデザイン2016】デザインセミナーにて、デザイナーの馬頭亮太さんと共に講演。“小さくても生き残る”と題し、企業とデザイナー双方の立場からお話をしていただきました~
「伝えるべき商品背景をデザインで伝える」
-周りの経営者の方に『デザインしたら売れるの?』と聞かれたら何と答えますか?
「いや、売れないでしょう。」と答えます。見た目が大事と言われますけど、やはり中身とデザインは=(イコール)でないとダメだと思います。デザインばかりお金をかけてもいけないし、でもその中身に合ったデザインでないと共感は得ていただけないと思います。だからデザインしただけ、お金かけただけで売れるかと言うとそうでもないし。デザイナーの馬頭さんは、そこを良く見てデザインしていただいたな、と本当に思います。多分生みの苦しみだったと思いますが、さすがデザイナーだなと思いますよね。
松崎 勝利
Profile:鹿児島県出身。近畿大学農学部にて菌茸類の研究を行った後に就農。平成15年に両親から会社を引き継ぎ理事に就任。小規模生産者が生き抜くため、培地の国産化など自然循環をテーマとした特徴ある栽培を行う。県外への販路開拓のため新商品開発に取り組み、「生と乾燥」全体でのブランド化を目指している。